将来の人口ビジョンについて

台東区のような基礎自治体が実施する行政事業は、国の法令や都の条例などが根拠となって実施されていきます。それらを実施していくにあたってのプライオリティーや事業規模などは、中長期的な財政収支や、その時々における区民ニーズの内容、その行政サービスを必要とする対象人口などの要因により決定されていくものであると認識しております。

区の人口は、予算規模に反映されるだけでなく、区政運営を行っていくうえで、大変重要な要因となっています。

だからこそ、長期総合計画を作成するにあたり、人口推計を実施しており、人口政策は、区の最重要課題として取り上げられ、定住促進・人口バランスの是正を目的としています。

そんな中、総務省より、住民基本台帳に基づく2021年の人口移動報告がされました。

東京都への転入が転出を上回る「転入超過」の人数は前の年より、25692減の5400人余りと今の方法で統計を取り始めてから最も少なくなり、さらに東京23区でみると転出者が転入者数を14828人上回り、初めて転出超過となったと。

理由として考えられるのは、コロナ禍により、テレワークや在宅勤務が浸透し、隣接圏などに移転する動きが加速化した点、密を避けるため地方への関心が高まったなど考えられます。

さらに台東区の状況をみてみると、

最初に毎年の1/1時点の住民基本台帳人口の増減数をみると、令和2年から令和3年で1216人増えているのに対して、 令和3年から令和4年の増加数は62人と鈍化しています。その1つの要因は転出数であり、平成30年と令和元年は約13,200人でしたが、令和2年は約14,300人、令和3年は約15,700人と増加傾向にあります。

次に、年代別に転入数をみてみると、20代の転入数は毎年増加しているのに

対して、働き盛り、子育て世代の30代、40台が減少しており、逆に転出が大きくなっているのがわかります。

子どもの数が増加している要因は、元々さほど高いわけではない出生率の増加ではなく、社会的要因に頼っていた台東区にとって、30代、40代の転出入の変化は、

見過ごすことのできない課題ではないでしょうか。

 

人口に密接な関係がある住宅事情を考える上で、新築マンションに注目すると、

区内の10戸以上のマンション建設は、令和3年は3434戸となっており、平成29年からの5年間合計は18956戸で、平均でも1年間に3791戸となっているにも

拘わらず、全体の人口の増加が鈍化しています。

推測するに、区内には今もマンションは増えている中、ワンルームマンションが多く、1人暮らしの人にとってはアクセスなどがいいなどの理由で増えていますが、

子育て世代になると台東区内のマンションでは狭いため、区外に転出して子育てをする流れになっているのではないでしょうか?

人口バランスを維持していくうえでキーとなる世代であるダブルインカムの30代、40代が区外に転出されてしまうと。税収や子どもの数(人口バランスにおけるこの世代の意義をもう少し書きたい)ということだけでなく、台東区行政との両輪といわれる町会の行事運営や災害時の自助共助活動に、協力・参加できなくなり大きな影響がでるのが危惧されます。

台東区は、子育てファミリー世帯の支援策として、平成2年に新婚家庭家賃補助を開始しましたが、新婚家庭の定着率が低いこともあり、ファミリー世帯家賃支援制度に移行しましたが、こちらも平成24年をもって新規募集は中止となり、現在は、区内定住を促進する制度はない状況です。

また、新しく区に転入してきた子育て世帯は、町会や業界団体など既存の組織に属していないことも多く、区政に対する意見を述べる機会も限られています。積極的に区へ要望を伝える方もいないわけではないと思いますが、

決して多いとは思えず。だからと言って、現状に満足している方ばかりではありません。そういったサイレントマジョリティーが望むことをどう捉えて事業化していくか。区外転出を防ぐためにはとても重要なこととなっています。

今、まさに人を呼び込む政策と住民の満足度を上げ転出させない政策の両方が必要と考えます。

「風の時代」というのを聞いたことがありますか? 産業革命を皮切りに約220年間続いてきた土の時代は、固定概念、不動産、終身雇用、生命保険、かたちあるものを重んじる、物質主義。目に見える資産形成に価値が置かれていた時代でした。それが2020年からは、「風の時代」となり、「風」が目に見えないように、情報や知識など形のないもの、伝達や教育などが重視され、人々は何より「知る」ことを求めていくことになると言われています。この節目に起こったのが、まさに新型コロナウイルスの登場で、世界の景色を一変させ、時間の使い方、働き方、家族との関係性など、大きく変動いたしました。

区内の民間企業の状況も大きく変革しています。

日本郵政が開発を推進している「蔵前一丁目開発事業」は、敷地面積 1.4 万㎡の大型複合案件で、オフィス棟、住宅棟、 高齢者住宅は自立型、介護型を併設する総戸数 154 戸の有料老人ホームも入っているそうで、南部地域のさらなる過密化が予測されます。今後は、今まで以上に民間企業と常に情報交換を行い、いろいろなかたちで連携することが必要になってくると強く考えています。

交通分野をみても、技術革新は、パーソナルモビリティーや自動運転などのテクノロジーが進歩しており、交通を取り巻く環境も大きく変化しつつあります。

こうした社会が大きく変化していく中で、行政に与える影響が最も大きい

人口政策について、改めて目を向ける時期に来ているのではないか、と考えます。

 

区の人口政策の要である人口ビジョン総合戦略ですが、当初、令和2年度中に新たな総合戦略の策定を行う予定が、前年から続くコロナの影響を受け、新たな計画を立てることは延長になっている中、今後、策定すると決算委員会でも報告がありましたが。コロナ禍で激変した環境下において、台東区の将来の人口ビジョンをどのように描かこうとしているのか区長の所見をお伺いいたします。